猫の低悪性度消化器型リンパ腫について
◉概要
白血球の一種にリンパ球という細胞があります。主に免疫グロブリンと呼ばれる抗体を作るなど免疫機能に大きく関与しており、大きくわけてB細胞とT細胞があります。
リンパ腫はリンパ球が悪性腫瘍化した病気です。リンパ肉腫や悪性リンパ腫という言葉も同じ意味です。
リンパ球は身体のいたるところに存在するのでどこにでもリンパ腫は発生する可能性がありますが、猫のリンパ腫で最も多いのが胃や腸にできる消化器型リンパ腫です。消化器型リンパ腫でも高悪性度と低悪性度に分かれますが、今回は低悪性度の消化器型リンパ腫についてお話しします。
◉特徴と症状
低悪性度のリンパ腫は小型のリンパ球が増殖する病気で、高分化型リンパ腫・Low-gradeリンパ腫・小細胞性リンパ腫などとも言われます。リンパ腫はどの年齢でも発症する可能性がありますが、特に中~高齢の猫に特に多くみられます。
症状は非特異的なことが多く、慢性的な消化器症状(嘔吐・下痢など)・体重減少・元気消失・食欲の低下・腹水貯留などがよく認められます。
胃腸(胃・小腸・大腸)だけでなく、肝臓・膵臓にも発生することがありますが、小腸に発生することが最も一般的です。
◉検査・診断
症状や以下のような各種検査を行なって診断を進めてきます。
①血液生化学検査
アルブミンの低下やカルシウム値の上昇認めることがあります。
②腹部超音波検査
全く変化がなかったり軽度な変化であることが一般的です。中には小腸壁や筋層の軽度な肥厚やリンパ節が軽度~中等度に腫大することもあります。しかし、これらの所見は時折正常な猫や慢性腸炎の猫でも認められます。
③内視鏡検査
内視鏡を用いて胃腸を内部から観察し、腸の粘膜部分を生検してます。採取した組織は病理診断センターに外注して診断します。実施にあたっては麻酔が必要です。
利点:開腹せずに実施できるので身体への負担が小さい
腸穿孔のリスクが低い
欠点:腸壁の一部の層しか採取できない
スコープが届く範囲しか採取できない
全層生検よりも診断精度が低い
④開腹下での腸の全層生検
開腹して腸の全層を生検して病理検査を行い診断します。全身麻酔が必要です。内視鏡検査よりも診断精度は高まりますが、身体への負担やリスクも大きくなります。
利点:腸の全層を生検できる
胃・小腸・大腸の全域から採取できる
内視鏡検査よりも診断精度が高い
同時にリンパ節・肝臓・膵臓などからも生検できる
欠点:開腹が必要で体への負担が大きい
腸穿孔の可能性がある(特に低アルブミンの場合)
腸穿孔を起こすと腹膜炎となり命に関わることがある
⑤クローナリティー検査
リンパ腫がT細胞性かB細胞性かを判別する検査です。猫の低悪性度消化器型リンパ腫はほとんどがT細胞性です。
◉治療
①抗がん剤
クロラムブシルという内服の抗がん剤を使用します。ステロイドの併用も一般的です。
用法:1日おきに自宅で服用していただきます。
副作用:骨髄抑制・消化器症状(嘔吐・下痢)などがありますが強い副作用が出ることは稀で す。
体重が元に戻り、30日間症状(食欲低下・嘔吐・下痢など)が消失した場合に完全寛解と判断します。完全寛解する確率は36~96%程で、平均的に15~26ヶ月の延命が期待できす。
②緩和治療のみ
ステロイド、吐き気止め、制酸剤、痛み止め、点滴などを症状に応じて使用していく治療です。延命効果はありませんが、調子の良い時間をなるべく長くすることに専念する治療です。
◉まとめ
猫の低悪性度の消化器型リンパ腫は抗がん剤の使用で比較的長期生存が可能です。抗がん剤の治療も副作用は非常に出にくく負担もそれほど大きくありません。その反面、完治することはほとんどありません。
お家の猫ちゃんが慢性的に下痢や嘔吐を繰り返したり体重が減っている場合には、実は消化器型リンパ腫のような病気が隠れていることもあります。異変を感じたら早めに病院に行き、必要があれば検査をお勧めします。
もしも消化器型リンパ腫と診断された場合には、当院でも十分なインフォームを行った上で、飼い主様や猫ちゃんの生活スタイルに合った治療法をご提案させていただきます。