猫の高悪性度消化器型リンパ腫について
◉概要
白血球の一種にリンパ球という細胞があります。主に免疫グロブリンと呼ばれる抗体を作るなど免疫機能に大きく関与しており、大きくわけてB細胞とT細胞があります。リンパ腫はリンパ球が悪性腫瘍化した病気です。リンパ肉腫や悪性リンパ腫という言葉も同じ意味です。
リンパ球は身体のいたるところに存在するため、どこにでもリンパ腫は発生する可能性があります。猫のリンパ腫で最も多いのが胃や腸にできる消化器型リンパ腫です。消化器型リンパ腫でも高悪性度と低悪性度に分かれますが、今回は高悪性度の消化器型リンパ腫についてお話しします。
◉特徴と症状
リンパ腫はどの猫にも発症する可能性がありますが高齢の猫(10~12歳)に特に多くみられます。症状は急性~慢性的な消化器症状(嘔吐・下痢など)・体重減少・元気消失・食欲の低下などがよく認められます。中には消化管閉塞を起こしたり消化管穿孔を起こして腹膜炎を呈することもあります。
◉リンパ腫の分類
リンパ腫には以下のように様々な分類方法があります。
①悪性度による分類
高悪性度・低悪性度など、『どの程度悪いタイプなのか』という見方による分類があります。悪性度により治療内容や予後が大きく変わってきます。
②発生部位による分類
リンパ腫は身体中のどこででも起こり得ますが、主な発生部位としては消化器型(胃・小腸・大腸)・縦隔型・腎臓・肝臓・鼻腔内・皮膚型・節外型(非典型的なもの)があります。このように体のどこにリンパ腫が発生しているかによっても分類します。これは画像診断や細胞診などで絞り込んでいきます。
③細胞の種類による分類
リンパ球にはT細胞・B細胞・ナチュラルキラー細胞などの種類があります。クローナリティー検査や免疫染色という特殊検査によって腫瘍細胞がT細胞かB細胞かを見分けます。予後判定や抗がん剤の選択に影響を与えることがあります。特にナチュラルキラー細胞が悪性腫瘍化した消化器型のLGLリンパ腫は非常に予後が悪いと言われています。
④見た目による分類(正式な分類法ではない)
猫の高悪性度消化器型リンパ腫は様々な病変を作ります。消化管にできものを作ることもありますが、できものを作らない場合もあります。(※以下の名称は学術的なものではなく便宜上当院で名付けたものです)
正常所見型(見た目も超音波検査上も異常ないがリンパ腫である状態)
串団子型(腸管にできものを認める)
ちくわぶ型(腸管壁が広い範囲で肥厚している)
リンパ節腫大型(リンパ節の肥厚を認める)
◉検査・診断
症状や以下のような各種検査を必要に応じて組み合わせ診断を行います。
①身体検査
聴診、視診、触診などまずは一般的な身体検査にて異常所見が見られないか確認してます。できものを作るタイプの場合は、腹部の触診で腹腔内にできものを触知できることもあります。
②CBC(血球検査)
CBCでは非特異的な所見しか得られないケースがほとんどです。しかし、リンパ腫が血液中にも出現している場合にはリンパ球数の上昇や悪性腫瘍化したリンパ球が確認できることもあります。基本的に血液中にもリンパ腫が認められる場合はステージⅤで病状は非常に進行した状態です。
③血液生化学検査
アルブミンの低下を認めることがあります。そのほか肝臓や腎臓に転移している場合は各数値が上昇していることもあります。また治療にあたっては、抗がん剤の投与量調整のためにも肝臓や腎臓の機能の評価が必要です。
④レントゲン検査
ステージング(どこまで腫瘍が広がっているかという評価)の一環として実施します。
⑤腹部超音波検査
超音波検査で消化管の構造の異常やできものの有無を確認します。腫瘍の形成状態によっては異常が検出できることがあります。
⑥細胞診検査
できものが認められる場合には、超音波ガイド下での細胞診にてリンパ腫の診断が可能な場合があります。またステージングのために併せて肝臓や脾臓も細胞診を行うことがあります。
⑦内視鏡検査
超音波検査で消化管の肥厚が軽度だったり見た目は正常な場合は、細胞診は不適応です。診断には内視鏡生検による消化管粘膜の生検が必要です。この場合、麻酔をかける必要があります。
⑧骨髄検査
ステージングのために行う場合があります。麻酔が必要です。
◉治療
リンパ腫のでき方やステージなどに応じて、下記の治療の中から適した治療方針を決定します。基本的にはシビアな病気で完治の可能性は低いですが、しっかり治療すると1・2年以上の延命効果が得られる場合もあります。
①外科手術+術後の抗がん剤
まずは手術でできものを切除します。基本的にできものを作る消化器型リンパ腫(串団子型)の場合のみ適応です。事前に画像検査により手術可能か予測します。また、消化管閉塞や穿孔を起こしている場合には緊急手術が必要となることもあります。串団子型のリンパ腫の中には、抗がん剤で一気に腫瘍細胞が減少することで消化管穿孔や消化管閉塞が起きることもありますが、手術で予めできものを切除することで予防できます。
抗がん剤は1~9週間は毎週、11週目から隔週の投与を行います。抗がん剤の副作用としては骨髄抑制・消化器症状・心臓毒性(抗がん剤の種類による)などが起こることがあります。
治療によって平均的に1~1年半前後の延命効果が期待できます。特にリンパ腫が腸管のみに限局している場合には手術によって延命がより見込めます。以前は手術しても延命効果はないと言われていましたが、近年は手術することで延命効果が認められる可能性が示唆されています。
②抗がん剤のみ
抗がん剤でリンパ腫の細胞を減らしていく治療です。通常、抗がん剤は上記と同じスケジュールで実施します。抗がん剤が効く確率は60%程度で、平均して6~9ヶ月の延命が期待できます。ただし、猫の白血病ウィルスに罹っている場合は抗がん剤が効きにくいと言われています。
③緩和治療のみ
ステロイド、吐き気止め、制酸剤、痛み止め、点滴などを症状に応じて使用していく治療です。延命効果はありませんが、調子の良い時間をなるべく長くすることに専念する治療です。緩和治療のみの場合は平均的な余命は数日~数ヶ月と言われています。
◉まとめ
猫の高悪性度の消化器型リンパ腫は積極治療をしても基本的に予後が悪い病気です。しかし、早期発見し適切な治療を受けることにより年単位の延命や稀ではありますが完治することもあります。
お家の猫ちゃんが慢性的に下痢や嘔吐を繰り返したり体重が減っている場合には、実は消化器型リンパ腫のような重い病気が隠れていることもあります。異変を感じたら早めに病院に行き、必要があれば検査をお勧めします。
もしも消化器型リンパ腫と診断された場合には、当院でも十分なインフォームを行った上で、飼い主様や猫ちゃんの生活スタイルに合った治療法をご提案させていただきます。