犬の胆嚢(たんのう)疾患|浅草橋の動物病院は「あさくさばし動物病院」へ 年中無休

診療科目別症例紹介

消化器の病気

犬の胆嚢疾患

◉胆嚢(たんのう)とは

 胆嚢は、肝臓で作られた胆汁を一時的に貯めておく袋状の構造物で、肝臓に埋め込まれるにように位置しています。食事の際に胆嚢が収縮すると、総胆管を経て胆汁が十二指腸内に排出されます。 胆汁は主に胆汁酸塩・胆汁色素・コレステロール・ビリルビンなどの成分で構成されており、脂肪の消化吸収の補助・特定のビタミンの吸収の補助・老廃物の排出といった役割を担っています。胆管が閉塞して胆汁が詰まると、こうした処理が滞り元気食欲の低下・黄疸・止血異常などの症状を呈します。

 肝臓と胆嚢の模式図(※実際には胆嚢は肝臓に埋め込まれる形でくっついています)

 

 胆嚢の代表的な病気

①胆泥症(たんでいしょう)

 胆嚢内に泥状の物質がたまる状態のことを言います。10歳以上の犬の40%に認めらるという報告もあります。胆泥は流動性があり、基本的に無症状で健康状態の悪化を引き起こすことはないと考えられています。健康診断の時に超音波検査で偶発的に発見されることが多々あります。

 

②胆嚢炎(たんのうえん)

 胆嚢に何らかの原因で炎症が起きている状態です。胆嚢炎の多くは胆石や細菌感染が原因で起こります。元気・食欲の低下などを引き起こすことがあります。血液検査・超音波検査などを組み合わせて診断し、治療には状況に応じて抗生剤などを使用します。

 

③胆石症 (たんせきしょう)

 胆嚢内にできる結石のことを「胆石」と言います。胆嚢内に結石がある時は無症状ですが、総胆管に詰まると胆管閉塞を起こし、急激な状態悪化を招くことがあります。

 診断にはレントゲン検査・超音波検査などを行います。症状がない場合は偶発的に見つかることもあります。

     胆石の治療は基本的に手術(胆嚢切開もしくは胆嚢摘出)です。胆石の状況によって手術の推奨度合いは変わります。小さな胆石が無数にある場合は、そのうちのどれかが胆管を閉塞させる可能性があります。しかし、胆管を通らない様な大きな胆石の場合は胆管閉塞が生じるリスクは低いため、胆石による胆嚢炎を繰り返さなければ手術をせず経過観察を推奨しています。

 ④胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)

 胆嚢内に粘液様物質であるムチンが貯留した状態を胆嚢粘液嚢腫と言います。胆嚢粘液嚢腫の詳しい原因は不明ですが、胆管閉塞や胆嚢壊死による破裂を引き起こし命に関わることがあります。診断は超音波検査で行います。症状がなく、偶発的に見つかることも多々あります。

 

⑤胆管閉塞・胆嚢破裂(たんかんへいそく・たんのうはれつ)

 胆石や胆嚢粘液嚢腫による胆管閉塞が原因で胆嚢が膨らみ胆嚢壁が壊死して破裂することがあります。急激な元気食欲の消失・腹痛・黄疸・嘔吐など様々な症状が現れます。重篤な場合には腹膜炎を起こし亡くなるケースもあります。

 診断は身体検査・血液検査・超音波検査などによって総合的に行います。また、治療は状況に応じて内科治療と外科治療を組み合わせます。

胆嚢破裂に陥った場合、適切な治療を実施しても死亡率が上がります。また手術は成功しても、回復に時間を要するため入院・治療期間は長期に及びます。そのため、胆石や粘液嚢腫などでリスクがある場合には、定期的な検査と早期治療を行うことが非常に重要です。

 

◉胆嚢摘出について

 胆嚢・胆管系の手術はいくつかありますがこちらでは胆嚢摘出に関してお話しします。

昔は胆管系の手術をした場合の犬の死亡率は28~63%と報告されていましたが、近年では以下のように手術成績が上がっています。

 ・無症状で胆嚢摘出を行った場合の死亡率:4.7%

 ・胆管疾患関連の症状があり胆嚢摘出を行った場合の死亡率:17.1%

これは画像診断技術の向上による早期診断や手術方法の技術向上によるものと考えられます。

 

①手術の適応

 胆石や粘液がいつ胆管閉塞を起こすのかは予測が難しく、胆嚢摘出の手術適応に関しては絶対的な基準はありません。胆管閉塞の原因が胆嚢にある場合や胆嚢破裂している場合には胆嚢摘出及び胆管のカテーテル洗浄が推奨されます。

 では無症状の胆石症や初期の胆嚢粘液嚢腫の場合はどうでしょうか?この場合は特に明確なガイドラインはありません。年齢や現在患っている病気によっては胆石や胆嚢粘液嚢腫が症状を呈する前に天寿を全うする場合もあります。このケースでは結果的には手術を行わなくてよかったと言えます。

 しかし、ある程度の年齢だが元気で他に基礎疾患もなく、胆嚢粘液嚢腫と診断された場合、当院では早期の手術をお勧めしています。その理由としては胆管関連の症状を示してから手術した場合の死亡率が高いこと・入院期間が長くなり動物のストレスも大きくなること・より高齢になる前に手術をした方が麻酔のリスクが少ないことなどが挙げられます。

 上記のような理由から、年齢・基礎疾患の有無・胆嚢内の状態など動物の状態に応じて総合的に手術するべきかを慎重に検討します。

 

②手術方法

    胆嚢を肝臓から剥がし、胆嚢管の部分で結紮し切断して摘出します。胆管閉塞がある場合にはカテーテルで閉塞物を洗い流し十二指腸まで押し出せるか試みます。

「胆嚢が無くても大丈夫なのか?」とご不安になられるかもしれませんが、一般的には摘出後も日常生活に差し障りが無いことがほとんどです。

 

③合併症

以下に挙げるのは代表的な合併症です。

・肝臓からの出血

 肝臓からの出血は多少生じますが、大抵は大事に至らず止血することが可能です。稀に出血量が多い、止血機構に問題がある場合には輸血が必要なことがあります。

 

・肝臓数値の上昇

 手術の侵襲によって術後は肝臓の数値が一時的に上昇します。しかし症状を示すほどの異常が生じることはほとんどなく、 一般的には時間とともに数値も下がっていきます。

 

・腹膜炎

    手術中に胆嚢の内容物が腹腔内に漏れると腹膜炎を起こすことがあります。衛生的な操作や   洗浄によってほとんどの場合予防できます。

 

・手術後の胆管閉塞

 非常に稀ですが、手術時に胆嚢内の胆石や粘液が胆管に移動し閉塞を起こすことがありま       す。場合によっては再手術が必要となります。

 

◉まとめ

 犬の胆嚢切除は、人に比べると肝臓との接合が強いため簡単な手術ではなく容易に勧められる手術ではありません。しかし、早期発見早期治療により死亡率は抑えられる可能性が高いと示唆されています。

 当院ではその子の状況・年齢・基礎疾患など総合的に判断して手術を行うべきかどうかを十分に検討します。胆嚢粘液嚢腫や胆石の診断は出ているが手術を迷っている方は一度ご相談ください。

 また胆嚢疾患は初期は症状がない場合も多いため、無症状のうちに見つけ出すには健康診断が非常に重要です。当院ではシニア期に入った子にはプレミアム健診をおすすめしております。無症状の場合にも診断に繋がる健診内容ですので是非ご相談ください(プレミアム健診はお電話か受付にて予約を承っております)。

 

この記事は【外科担当獣医師 徳山】が監修しました