当院の麻酔の取り組みについて|浅草橋の動物病院は「あさくさばし動物病院」へ 年中無休

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当院の麻酔の取り組みについて

◉はじめに

 ご自身が手術を受けることに不安がない人はいるでしょうか。おそらく、ほとんどの方が多少なりとも不安を感じることかと思います。それが大切な家族、ペットあればもしかすると自分のこと以上に心配になるかもしれません。手術や処置などの直接的な侵襲に対する不安はもちろん、飼い主様とお話をする中で、『全身麻酔』に対する不安から手術を躊躇うご家族様が多いと感じます。

 実際に手術を目の前にすると、事前の説明でも十分聞ききれないこともあるかと思いますので、今回麻酔についての記事を作成しました。麻酔の目的やリスク、また当院での麻酔への向き合い方について記事にしておりますので、これから手術や麻酔下処置を検討される飼い主様の参考になれば幸いです。

 

◉麻酔とは

 「麻酔」とは、薬物を用いて体の一部又は全身の感覚を抑制・喪失させる状態にすることです。睡眠や死と近い状態ではありますが、異なる点は麻酔で生じる感覚喪失は『可逆的』であり、使うお薬の種類や量によって抑制具合が『調整可能』という点です。お薬を用いることで、主に①痛みの感覚、②意識状態、③筋弛緩(体の力が抜けた状態)、④有害反射(体動や交感神経の興奮など)をコントロールすることができます。では、なぜ麻酔が必要なのでしょうか。それは、

 ~処置に伴う「痛み」や「恐怖」から身を守り、安全に処置を行うため~

です。

 人も動物も、恐怖や痛みによりストレスを感じると交感神経の緊張が起こります。その結果、低酸素状態に陥ったり、時としてショック症状を起こし亡くなることさえあります。動物の場合、病院という慣れない場所、知らない人の中にいるだけでそもそも大きなストレスを抱えています。加えて自分自身がどんな病状であるか、なぜ処置を受けなければならないかも分からないため、人以上に不安を強く感じているのではないか思います。

 動物にとって肉体的にも精神的にも安全・健全であること、そして正確に検査や処置を行う上で麻酔は非常に有意義な手段です。

 

◉麻酔に対する不安

 そうは言っても、麻酔をかけることへの不安を感じてらっしゃるご家族は非常に多いと実感しています。高齢である、持病がある、過去に飼われていた動物を手術で亡くした、以前麻酔後に体調が悪化した、漠然とした不安など、ご不安を感じる理由は様々です。確かに年齢や持病の有無、病状によって麻酔リスクが上がる場合もあります。ただし闇雲に怖がらず、「リスク」がどの程度あり具体的にどういうものかを事前に知っておけると少し気持ちの整理がつきやすいのではないかと思います。

 

◉麻酔リスクとは

 麻酔リスクとは、言葉の通り『麻酔をかける危険度合』を示すものです。動物の場合は、アメリカ麻酔学会全身状態分類(以下、ASA分類)を基準として術前に麻酔リスクをクラス1~5の5段階評価をします。各クラスが大まかにどのようなものかは下記に示しておりますが、併せてクラス毎の死亡率も報告されています。特にクラス3以上の場合は非常に深刻で、クラス1・2と比較して死亡率が20倍以上にも上昇するという報告があります。

 では、そうした危険度、クラス分類は何で推しはかるかというと、元気食欲などの一般状態をはじめ、処置対象となる病状、年齢、肥満度、持病の有無、緊急度合などから総合的に判断します。

 多くの麻酔薬は痛覚や意識を鈍らせるだけではなく、循環器や呼吸器の働きにも抑制をかける作用を持ち合わせているため、麻酔中に不整脈、血圧低下、体温低下や呼吸停止ということが起こります。こうした時に健康な個体であれば生体を安全に維持する許容範囲に体が対応できます。しかし心臓や肺、肝臓、腎臓などの循環・呼吸・薬物代謝などを司る臓器に持病がある場合、非常に高齢であるような場合には臓器の予備能力が低いため薬での補助が必要なことが多々あります。場合によっては持病が悪化したり処置中に亡くなる可能性もあります。その他にも糖尿病や頭蓋内疾患、高血圧などの持病がある、ブルドッグやペキニーズなどの短頭種も術中・術後にバイタルが不安定になりやすいため注意が必要です。また、「緊急手術」は年齢や持病の有無に関係なく高リスクと考えています。それは、緊急手術を要するほどの病状であることに加え、術前検査に時間をかけられず事前の詳細な評価が困難なためです。

 緊急手術の際は致し方ありませんが、どの程度のリスクがあるか、起こりうる事態を事前に予測しておくことで、できる限り万全な体制で麻酔に臨むことができます。当然ですが、麻酔をかけて行う処置や手術のメリットよりもリスクが上回る場合にはそもそも麻酔をかけません。手術や処置を行うことでどのようなメリットがあるのか、予後がどのように変わるのかということもしっかりと相談しましょう。

 

◉全身麻酔とは

 麻酔は意識は残したままで体の一部の感覚を消失させる「局所麻酔」と、感覚消失に加えて意識も消失させる「全身麻酔」に大別されます。人では無麻酔や局所麻酔で済むような処置でも、動物の場合は全身麻酔が必要なことがほとんどです。それは前述の通り、動物は処置に伴って強い不安を感じたり攻撃的になる場合がある、じっとしていることが難しい為です。

 全身麻酔では血中や呼吸器を介してお薬の投与を行うため、全身に対して作用が及びます。意識を鈍らせたり痛みを感じなくさせる作用だけでなく、局所麻酔に比べると呼吸抑制や循環抑制などの副作用も伴います。意識消失、鎮痛、筋弛緩効果をバランスよく得られ、なおかつ副作用が少ないお薬があればいいのですが残念ながらそうしたお薬はありません。

 そうした点に対して当院では、「バランス麻酔」や「マルチモーダル鎮痛」という考えをベースにして麻酔の選択をしています。バランス麻酔とは、複数の麻酔薬を少量ずつ組み合わせることで、副作用を最低限にしながら処置に必要な作用を得る麻酔方法です。またマルチモーダル鎮痛も、作用部位の異なる麻酔薬を組み合わせることでより効果的に鎮痛効果を得る方法です。具体的にどういった麻酔薬を組み合わせるかは、動物の病状・性格・処置内容などによって検討しています。

 

◉当院での麻酔下処置への取り組み

当院ではできる限り安全に麻酔を実施するため以下のような点に気をつけて準備をしています。

①麻酔処置の必要性の把握

 まず第一に、病状に対して麻酔をかけて行う処置のメリットが高いのかどうかを判断します。治療内容に麻酔下検査での診断が大きく影響しうるのか、手術の成功率、予後、持病の悪化リスクなどから麻酔をかけるメリットがデメリットを上回る場合に麻酔をかけます。もしデメリットの方が高いようであれば、内科治療や緩和的な方向性で治療を進めていくこともあります。

 

②術前検査

 身体検査と血液検査を基本としています。レントゲンや超音波検査、尿検査、外注検査なども必要に応じて実施します。そして検査結果を元に、ASA分類にてリスク評価を行います。もし、術前検査にて麻酔で問題となるような異常がある場合には基本的には処置を延期します。そちらの精密検査や治療を優先し、体調を整えた上で再度スケジュールを組む方がいいでしょう。(※緊急の場合にはその限りではないこともあります。)

 ただし、全てのリスクが術前検査で明らかにできるわけではありません。麻酔薬に対するアレルギーや悪性高熱といった特異体質については事前評価は困難です。発生時には全力を尽くして対応致しますが、リスクは0にならないことはご理解ください。

 

③動物にあわせた麻酔計画

 術前検査の結果、年齢、性格、病状、手術や処置で生じる痛みの程度などを元に麻酔薬の選択をしていきます。同じ手術でも病状によっては避けた方がいい薬もあるため、持病がある場合には特に熟考して麻酔薬の選択を行います。

 当院では、手術中の麻酔維持に主に吸入麻酔薬を使っています。吸入麻酔薬は安全かつ円滑に麻酔が可能なため麻酔維持薬として至極一般的用いられますが、稀に吸入麻酔薬により「悪性高熱」という遺伝性疾患が起こる場合があります。これは非常に稀かつ術前検査でも予見できない体質なのですが、発生するとほぼ助かることはありません。追加でご費用はかかりますが、こうしたリスクを減らす目的で麻酔維持を静脈麻酔で実施することも可能です。

 

④術中~術後のモニタリング

 手術や処置にあたって、当院では術者以外に必ず麻酔担当者をつけます。また必要に応じて血管確保や気管挿管にて気道確保をした上で処置にあたります。麻酔中は、心電図、血圧、酸素飽和度、呼吸モニター、体温などを常時確認できるようにモニター類を動物に装着し、5分毎に記録をつけます。バイタルに問題がないか、麻酔深度が適切かを常に確認して問題があればすぐに対応できるようにします。

 手術が終わった後も麻酔薬の影響が残りふらついたり、状況に驚きパニックになる動物もいるため、まだ注意が必要です。意識状態、呼吸、血圧、体温、痛みのレベルなどが問題ない程度に回復するまでこまめに状態の確認と必要な治療を行います。

 

⑤退院後

 日帰り手術・処置の場合、帰宅後にいつもより大人しかったり元気がないと感じられるかもしれません。通常、翌日には徐々に活動性が出てくることが多いのですが、元気食欲が戻らなかったりぐったりしている、排尿がない、いつもと様子が違うといった場合にはまずご連絡ください。痛みによる症状か合併症が生じている可能性があるか判断が必要ですので、状況によってはご来院頂き必要な検査・治療を実施します。

 

◉まとめ

 動物にとって麻酔をかけることは決してマイナスではなく、健全に処置を行うために必要な手段です。高齢であっても必ずしもリスクが高いとは限りませんし、若いからといって安全とは言い切れません。

ご不安があれば遠慮なくご相談ください。我々にできる最善を尽くして麻酔にあたります。