短頭種気道症候群
◉短頭種気道症候群とは
『気道』とは鼻・鼻甲介や鼻咽頭(鼻の奥)・喉頭(のど)・気管など肺に通じる空気の通り道(図参照)を示します。
また、短頭種とはパグ・フレンチブルドッグ・シーズー・ペキニーズ・ボストンテリア・ブルドッグなどを代表とした鼻が短い犬種を指します。短頭種は他の犬種よりも生まれつき気道が狭い傾向にあります。
短頭種気道症候群とは、このような犬種において認められる気道の解剖学的異常を指します。具体的には、外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、喉頭小嚢の外転、喉頭虚脱、気管低形成などが含まれ、これらの内ひとつもしくは複数が組み合わさり症状を呈します。
気道が狭いと一生懸命呼吸をする必要があり、気道に負担がかかります。細いストローを口に挟んでそこからのみ呼吸をしてもらうとイメージしやすいでしょう。
◉短頭種気道症候群の症状や問題点
・鼻や喉がブーブー・ガーガーと鳴る
・いびき・睡眠時無呼吸
・呼吸が苦しくなる、頑張って呼吸をする
・咳をする
・失神する
・慢性的な消化器症状(嘔吐・食道裂孔ヘルニアなど)
・体温調節が困難で熱中症になりやすい
・麻酔の覚醒時に呼吸困難になりやすい
上記の症状は何年も放っておくと下図のように悪循環し、徐々に進行していきます。さらに、高齢になると呼吸困難に陥ったり最悪突然死してしまうこともあります。
呼吸がし辛い → 呼吸を頑張ってする
↑ ↓
気道が狭くなる ← 気道に負担がかかる
◉治療
短頭種気道症候群は先天性の病気なので基本的には完治することはありません。しかし、生活習慣の改善や内科治療・外科治療を適切に組み合わせることにより症状緩和や進行を遅らせることが出来ます。場合によっては症状がほぼ消失することもあります。
①生活習慣の改善
・室温を低めにする、送風する
短頭種の犬は体温が上がりやすい傾向にあります。体温が上がるとさらに呼吸状態も悪化し熱中症にもなりやすくなります。室温を低め(22~25℃前後)に設定し、扇風機などで風を送り体に熱がこもりにくくすることが大切です。
・日中の暑い時間に外出しない
・痩せ気味にする
肥満だと厚い皮下脂肪が気道を圧迫してしまいます。標準体重よりも少し痩せ気味にすることで呼吸が楽になります。
②内科治療
・緊急時
呼吸困難になった場合は、ステロイドや鎮静剤、酸素室での安静などの対処が必要です。
・日常的な内科治療
気管を広げて呼吸をしやすくするお薬などはありますが効果は一時的です。内科治療だけでは長期的管理は難しい場合があります。
③外科治療
[予防的手術]
いくつか種類がありますが現時点で勧められている手術をご紹介します。基本的に短頭種気道症候群は進行性の病気なので高齢になってからよりも若齢時(6ヶ月~4歳くらい)に以下の手術を行うことをお勧めします(当院では避妊・去勢時にお勧めしています)。生まれつきかつ呼吸器の複合的な病気のため手術のみで完治はできません。しかし、手術をした症例の90%程度で症状の緩和があると報告されており、病気の進行を遅らせる効果も期待されています。
⒈外鼻孔切除
外鼻孔(鼻の出入口)が狭い場合には鼻の一部を切除して鼻の孔を広げます。手術が適応かどうかは見た目で判断可能です。早期での実施が推奨されています。当院では基本的には日帰りで実施しています。
⒉軟口蓋切除
軟口蓋とは喉の奥の柔らかい組織のことです。軟口蓋が長すぎると喉の奥がガーガー鳴ったりいびきをかいたりします。切除することで喉奥の空気の通りが良くなり症状の緩和に繋がります。手術適応かどうかは麻酔をかけて喉の奥を観察する必要があります。早期での実施が推奨されています。当院では基本的に日帰りで実施可能です。
[進行時の手術]
進行時の手術は効果も低く麻酔のリスクも高いため、なるべく若齢時に予防的手術をすることをお勧めしています。上記の手術に加えていくつかご紹介します。
⒈喉頭小嚢反転
進行すると喉頭小嚢という部分が裏返り気道を狭くしてるので切除する場合があります。
⒉永久気管切開
呼吸困難が他の手段で改善できない場合に最終手段として実施します。首のあたりの気管に手術で穴を空けて喉を通さずに呼吸をさせる方法です。肺や気管に異常がないことが条件です。麻酔のリスクも高く入院も長期化します。また退院後も自宅で術部の管理が必要になります。
以上が短頭種気道症候群についての簡単なお話です。
飼われているわんちゃんが短頭種で上記の症状がある場合は、予防的手術をお勧めしています。症状が似ていても他の病気のこともあるので、診察した上で手術適応かご相談させていただきます。