犬の高悪性多中心型リンパ腫について|浅草橋の動物病院は「あさくさばし動物病院」へ 年中無休

診療科目別症例紹介

腫瘍

犬の高悪性多中心型リンパ腫について

◉リンパ腫とは

 白血球の一種にリンパ球という細胞があります。主に免疫グロブリンと呼ばれる抗体を作るなど免疫機能に大きく関与しており、大きくわけてB細胞とT細胞があります。

 リンパ腫はリンパ球が悪性腫瘍化したものです。リンパ肉腫や悪性リンパ腫という言葉も同じ意味です。

 リンパ球は身体のいたるところに存在するのでどこにでもリンパ腫は発生する可能性があります。犬のリンパ腫で最も多いのが身体中のリンパ節に多発する多中心型リンパ腫です。多中心型リンパ腫の中でも高悪性度と低悪性度に分かれますが、今回は高悪性度の多中心型リンパ腫についてお話しします。

◉特徴と症状

 中~高齢の犬に特に多くみられます。症状は体表リンパ節の腫れ・体重減少・元気消失・食欲の低下・消化器症状(下痢・嘔吐)などがよく認められます。

また下顎や頸部のリンパ節が顕著に腫れることによる物理的圧迫から、呼吸困難・いびきなどの症状が見られることもあります。

 無治療の場合は、平均して診断から1~2ヶ月の命と言われています。

また高悪性度リンパ腫は、別名でHigh-Gradeリンパ腫・大細胞性リンパ腫・低分化型リンパ腫などど言われることもありますが、これらは基本的に同じ意味です。

 

◉リンパ腫の分類

リンパ腫には以下のように様々な分類方法があります。

①悪性度による分類

 高悪性度・低悪性度など『どの程度悪いタイプなのか』という見方による分類があります。悪性度により治療内容や予後が大きく変わります。

 

②発生部位による分類

 犬のリンパ腫の場合、主な発生部位による分類としては多中心型・消化器型(胃・小腸・大腸)・縦隔型・鼻腔内型・皮膚型・内臓型(肝臓・脾臓・腎臓など)があります。犬のリンパ腫の80%は多中心型リンパ腫です。

 

③細胞の種類による分類

 リンパ球にはT細胞・B細胞などの種類があります。クローナリティー検査や免疫染色という特殊検査によって腫瘍細胞がT細胞かB細胞かを見分けます。これらの違いは、予後の予測や抗がん剤の選択に影響を与えることがあります。

 

④サブステージ

 サブステージは症状の有無に関する分類です。リンパ節の腫れ以外の症状がない場合はサブステージA、何らかの症状がある場合はサブステージBです。サブステージAの方が予後が良好と言われています。

 

◉検査・診断

症状や各種検査を行なって診断を進めてきます。

①身体検査

 体表リンパ節(下顎リンパ節・浅頸リンパ節・腋窩リンパ節・鼠径リンパ節・膝窩リンパ節など)の腫れが触知できます。

 

 

②CBC(血球検査)

 CBCには非特異的な所見しか得られないケースがほとんどです。しかし、リンパ腫の細胞が血液中にも出現することがあります。この場合はステージⅤとなり、病状が非常に進行した状態です。

 

③血液生化学検査

 肝臓や腎臓にもリンパ腫が浸潤している場合は各数値が上昇することもあります。また、抗がん剤の量の調整のためにも肝臓や腎臓の機能の評価が必要です。

 

④レントゲン検査

 ステージング(どこまで腫瘍が広がっているか)の一環として行います。

 

⑤腹部超音波検査

 超音波検査で内臓に明らかな異常がないかを検出できることがあります。ステージングにも有効です。

 

⑥細胞診検査

 体表リンパ節の細胞診にてリンパ腫の診断が可能であることが多々あります。また、併せてステージングのために肝臓や脾臓の細胞診を行うこともあります。

 

⑦骨髄検査

 ステージングのために行う場合があります。実施には麻酔が必要です。

 

⑧クローナリティー検査

 リンパ腫がT細胞性かB 細胞性かを判別する検査です。犬の多中心型リンパ腫はB細胞性の方が多くみられます。予後の予測や抗がん剤の選択に影響を与えます。

 

◉治療

 抗がん剤を軸とした治療を行います。基本的にはシビアな病気ですが、抗がん剤による治療は確立されており長期延命の可能性もあります。身体のあらゆるところにリンパ腫が病変を作るため、手術や放射線治療は適応になりません。

 

ー寛解と治癒についてー

 リンパ腫の治療の際に『寛解』と『治癒』という言葉が使われます。両者の違いについては正確に理解しておく必要があります。

 寛解:がん細胞を体に影響がなく検査でも検出できないレベルまで抑え込んでいる状態

 治癒:がん細胞が体から完全に消失した状態

 抗がん剤が奏功すると元気も出てリンパ節も元の大きさに戻ります。見た目では治ったようにみえますが、がん細胞の数が減っただけでまだ身体の中に存在している場合がほとんどです。抗がん剤を休薬しても何年間も再発兆候が見えない場合には完治『治癒』の可能性が高いと判断します。

 

①抗がん剤

 抗がん剤は第1~9週間までは毎週投与します。第11週目から隔週の投与となり、第25週の抗がん剤を終えた時点で寛解を維持できていれば一度完全に休薬します。その後は定期検査をしていきます。

 抗がん剤の主な副作用としては骨髄抑制・消化器症状・心臓毒性(一部の抗がん剤のみ)・膀胱炎(一部の抗がん剤のみ)などがあります。

 寛解に至る確率は80~90%程度で、以前は1年生存率:50%2年生存率:20%と言われてきましたが、抗がん剤のプロトコールの研究が進み35%の犬で3年以上寛解状態を維持できるようになってきています。また、最初のプロトコールが効かなくなった場合は別のプロトコール(レスキュープロトコール)の使用を検討します。

 

②緩和治療のみ

 ステロイド、吐き気止め、制酸剤、痛み止め、点滴などを症状に応じて使用していく治療です。延命効果はありませんが、調子の良い時間をなるべく長くすることに専念する治療です。緩和治療のみの場合は平均的な余命は1~2ヶ月と言われています。

 

◉まとめ

 犬の高悪性度多中心型リンパ腫は命に関わる非常に厳しい病気ですが、治療についての研究は非常に進んでいます。適切な治療を行うことで比較的長期の延命も期待でき、中には完治することもあります。

 多中心型リンパ腫は自宅での身体検査で気づくことも多いため、わんちゃんのリンパ節を触ってみて大きいなと感じたら早めの来院をお勧めします。もちろんリンパ腫だけでなく感染や炎症でもリンパ節が腫れることがあるので細胞診で見分けていきます。

 動物での抗がん剤は基本的には「見た目の副作用がほとんどみられないが、血液検査をすると副作用は出ている」程度で使用していきます。抗がん剤の治療期間はずっと苦しんだり痛がったり吐いたりする訳ではありません。当院では抗がん剤の利点や欠点も含めて十分インフォームした上で抗がん剤治療をするべきか相談し、ご家族様やわんちゃんの生活スタイルに合った治療法をご提案させていただきます。

 

この記事は【腫瘍科担当獣医師 徳山】が監修しました