猫の脾臓の肥満細胞腫|浅草橋の動物病院は「あさくさばし動物病院」へ 年中無休

診療科目別症例紹介

腫瘍

猫の脾臓の肥満細胞腫

◉概要

 肥満細胞とはアレルギー反応に関与する細胞で、この肥満細胞が悪性腫瘍化したものが肥満細胞腫です。肥満細胞は全身に分布して体のどこにもできる可能性がありますが、皮膚や内臓(脾臓や消化管)などに多く発生します。

 肥満細胞の中には顆粒があり、ここにはヒスタミンやヘパリンなどが含まれています。これらの物質は肥満細胞を刺激すると放出されることがあり、場合によっては重篤なショック症状、できものと周囲が真っ赤に腫れる症状(ダリエ徴候という)、消化管潰瘍などを引き起こすことがあります。

 

◉脾臓の役割

 脾臓は腹部の左上、胃の横にある細長い臓器です。免疫機能の一部、古い血球の排除、血液を造るなどが主な役割です。他の臓器のサポートのような機能が多く、脾臓のみでしかできないことはほとんどありません。そのため、脾臓を丸ごと摘出しても基本的には日常生活に問題はありません。

 

◉特徴

 脾臓に肥満細胞腫ができると、元気消失・食欲の低下・体重の減少・嘔吐など特徴のない症状が認められます。高齢の猫に発生が多く、猫の脾臓に発生する悪性腫瘍としては最も多く認められます。

 

◉診断・検査

・身体検査

 脾臓が顕著に大きくなっている場合には、腹部の触診で触知できることがあります。

 

・血液検査

 血液中に肥満細胞が認められる(肥満細胞血症)ことがあります。

 

・超音波検査

 腹部の超音波検査にて脾臓の腫大を認めることがあります。また近くのリンパ節や肝臓など の臓器に転移がないかも併せて確認します。

 

・細胞診

 注射針で脾臓の細胞を採取して顕微鏡で観察します(写真1)。肥満細胞腫であれば、超音波ガイド下細胞診で診断できることが多くあります。脾臓は血液の豊富な臓器のため、処置の際に猫ちゃんが動くと大出血を起こし非常に危険です。猫ちゃんの性格にもよりますが基本的には鎮静薬を使用した処置が必要です。また、肥満細胞腫だった場合には抗アレルギー剤の注射を打ちダリエ徴候やショック症状を起こりづらくします。

 

・病理組織学的検査

 脾臓を切除し、採取した組織を病理組織検査を実施します。検査には全身麻酔が必要です。また病理診断医への外注検査ですので、結果報告には1週間程度時間を要します。

 

・ステージング

 肥満細胞腫が転移(肝臓やリンパ節や皮膚など)していないかを調べる検査です。血液検査・X線検査・超音波検査・骨髄検査、場合によってはCT検査などを行います。転移を疑う所見を認めた場合には、細胞診にて転移の有無を確認します。

 

・遺伝子検査

 C-KIT遺伝子変異という遺伝子の変異を検出します。遺伝子検査が陽性の場合には治療にあたる上で分子標的薬の使用を検討します。こちらも外注検査で実施します。

 

◉治療

・脾臓摘出

 手術で脾臓を丸ごと摘出します。猫の脾臓の肥満細胞腫は転移や肥満細胞血症があったとしても、脾臓摘出により症状が緩和され平均的に12~19ヶ月の延命効果が得られることが確認されています。麻酔や開腹が必要ですが最も高い効果が期待できる治療方法です。

 

・抗がん剤

 脾臓摘出後の追加治療として抗がん剤を併用したり、抗がん剤のみで治療することもあります。抗がん剤には従来の抗がん剤と分子標的薬という比較的新しいタイプの抗がん剤があり、遺伝子検査結果などを考慮して使用を検討します。脾臓の肥満細胞腫に対して抗がん剤が延命効果を示したとするエビデンスは現時点では明確に確認されていません。

 

・緩和治療

 猫ちゃんの年齢・既往歴・状態・転移の有無などを総合的に判断し、上記の手術や抗がん剤、点滴や吐き気止めなどの支持療法などを組み合わせて治療してきます。

 

◉まとめ

 猫の脾臓の肥満細胞腫は特徴のない症状ばかりでご自宅で気づく事は困難です。しかし、慢性的な嘔吐・体重減少・元気がないなどあれば病院で一度詳しい検査をお勧めします。詳しく調べると、実は脾臓の肥満細胞腫などの重篤な病気が隠れていることがあります。どの腫瘍も早期発見早期治療が非常に重要です。なるべく小さく・転移がない方が完治の可能性が高まります。気になる症状がある場合は当院へご相談ください。

 

この記事は【腫瘍科担当獣医師 徳山】が監修しました